プレゼント







黄瀬は部活の最中に溜息をもらした。

「笠松センパイ、今日はクリスマスですよ、何で部活やってるんスか?」

すかさず笠松のツッコミが炸裂する。

「試合に勝つために決まってるだろ、何ボケてんだ」

頭をさすりながら、黄瀬は恨めしそうに笠松を見る。

そんな黄瀬に笠松は耳元でささやいた。

「だから、今日は泊まりに来るんだろ」

初めてのクリスマスは二人で過ごそうと決めた。

誕生日には黄瀬の家に泊まった。ので、今度は笠松の家でということになった。

泊まるといっても別に持ち物は多くない。

服は互いに借りるし、歯ブラシと下着ぐらいだ。

もちろん、黄瀬は準備して来てるから、そのまま笠松の家に直帰できる。

体育館の扉の向こうではほとんど黄瀬のファンの子が時折手を振る。

黄瀬は笑顔で手を振り返す。

そんなやり取りが笠松にはやけにイラつく。

嫉妬だとわかっている。それだけ、黄瀬が好きだと分かっている。

何だかシャクだから、黄瀬にツッコミを兼ねて八つ当たりしている。

黄瀬も分かってるのに、愛想よくする。

それが黄瀬涼太だということも分かってるぶん、やっぱり気に入らない。

「サッサと試合に集中しろ」

「わかってるスよ」

そう、甘えている。黄瀬に愛されていると知っている分、そんなことが出来る。

許される、そんな甘えが笠松には少なくともあった。




部活が終わり、一度体育館を出ると、黄瀬はファンに囲まれ、プレゼントを押し付けられる。

今日はクリスマスだから余計だ。

黄瀬は優しい。

ファンは大事だとプレゼントは全て受け取っている。

社交辞令的なものだと知っている。

それでも笠松にはあまり見たくない光景のひとつでもあった。

部室に戻ると黄瀬は山になったプレゼントを品定めする。

食べ物もちゃんと持って帰り、食べ切れなさそうなら、部員に分けている。

笠松も食べるのを手伝うこともほぼ毎日だった。

恋人のファンのプレゼントの中身を食べる。

何ともやるせない気持ちになる。

それを毎日やっていると感覚が麻痺するようで、最初に比べて苦痛ではなくなった。

でも、できるなら食べたくはなかった。

そんな笠松の気持ちを黄瀬は知っているのだろうか。

確かめることもなく、日々は繰り返される。

「センパイ、これ…」

黄瀬が困り果てながら、差し出したのは頑張って作っただろう小さめのケーキ。

黄瀬の誕生日には幸い、ケーキのプレゼントはなかった。

むしろ、今までなかったのが不思議だったのだが、

「捨てろ」

「センパイ?」

いつもなら、そんなこと言わない笠松の言葉に黄瀬は聞き返す。

「もう受け取るな」

衝撃的な言葉。

どうしたのだろうか、黄瀬は笠松の言葉に信じられない表情で見る。

「どうしたんスか?いつもそんなこと言わないじゃないっスか」

黄瀬は思わず立ち上がる。

「俺が見たくない」

「センパイ、そんなこといってもせっかく俺のために…」

そんな黄瀬涼太を好きになった。

同姓である黄瀬涼太に。

ファンの一人ひとり心のこもったものを口にしたくない。

一緒にいるだけでいい。なんて詭弁だ。

好きになればなるほど、独り占めしたいし、嫉妬さえも芽生える。

「…悪い、頭冷やしてくるぜ」

笠松はそのまま部室を出て行く。

残された黄瀬はプレゼントのケーキを見つめたまま、呆然としていた。

「センパイ…」

黄瀬は唇をかみ締め、笠松の後を追った。





部室の裏手の木の下で笠松は女子と一緒にいた。

「あの、これを受け取ってくれませんか?ずっと笠松先輩のファンだったんです」

黄瀬は出ることも出来ず、その様子を伺っていた。

黄瀬の胸がズキリと痛む。

「センパイ」

黄瀬は静かにつぶやいた。



「悪いんだけど、俺好きな奴がいるんだ。だからこれは受け取れない。
受け取って、俺と同じ気持ちさせたくないんだ」

笠松はそうはっきりというと、女子はそのまま、その場から立ち去った。

笠松は溜息を吐くと、部室に戻ろうとした。

「黄瀬に謝らないとな…ひどいこと言ったしな」

「ヒドイことしたのは俺っスよ、センパイ」

黄瀬はそう言った。

「センパイ、ゴメンナサイ。俺…センパイをずっと傷つけてたんスね…」

うつむいて、申し訳なさそうに視線を逸らす黄瀬だった。

「やっぱり俺はお前が好きだ。どうしようもなく…だから、嫉妬してた。
お前が悪いわけじゃないのに、悪かったな…」

笠松は黄瀬の顔を自分の方に向けさせる。

「センパイ、俺…センパイの気持ちに気づいてあげられなかった…
俺…もこんなにセンパイのこと好きなのに…」

両目に涙を浮かべて黄瀬は自分を責めた。

「黄瀬、もういいから…」

笠松は黄瀬の涙に唇を当てた。やさしく、それをぬぐうように。




しばらくして、部室に戻った二人は放置されていたケーキを見つめた。

黄瀬は今日もらったプレゼントをすべてゴミ箱に放りこんだ。

「いいのか?」

「いいっスよ。俺にはセンパイがいるから」

そういって、笠松は仲直りだといって、黄瀬にキスをした。

すっかり仲直りした二人は当初の目的である笠松の家に向かう。

もちろん、クリスマスなのでケーキを買ったのだが、あの後だけに複雑な気持ちだった。

ちょっとづつ、二人の距離が縮んだ気がした日になった。





それから黄瀬はプレゼントを断ることにしたらしい。





おわり